号外すいかとかのたね

漫画雑誌「すいかとかのたね」のブログです。僕らの好きな漫画・雑誌の話です。

望月ミネタロウのサンプリング元を探す

こんにちは。漫画雑誌「すいかとかのたね」の中山望です。

 

なんとなく気になっていたことを書き留めて共有したい気持ちがあったので、望月ミネタロウ(望月峯太郎)という作家について少し書こうかなと思っています。
面白い作品だらけの人だけれど、今回扱うのは「望月ミネタロウ」に改名後の2作品『東京怪童』と『ちいさこべえ』のみです。

 

望月ミネタロウは、近年の作品での洗練された描線やキャラクターの動きの不思議な硬さ、コマ割りやセリフの独特のリズムなど特徴の多い作家だけれども、作品に出てくるキャラクターのアクの強さも一つの大きな特徴ではないかと思います。

(近年の)作品に出てくるキャラクターたちは魅力的であるものの、生き生きとしているというよりもむしろ作り物的な存在感を放っています。表情の少なさやポージングがフィギュアのようで、キャラクター自体が演技をしている、あるいは作者によって動かされているような感覚があります(もちろんすべての漫画のキャラクターは作者によって動かされているわけだけど…)。

だからといって漫画が単調でだというわけではないのが面白いところです。

望月作品のキャラクターは、アクが強いゆえに作品内で衝突や齟齬を起こします。その衝突や齟齬が物語の軸になっているのが、先ほどあげた2作『東京怪童』『ちいさこべえ』だと思っています。

 

そのキャラクターたちのアクの強さは、ビジュアル的な強さに起因するところも大きいのではないかと僕は思っているのですが、それらのビジュアルの生成の手法の一つに、サンプリングがあるのはまず間違いないでしょう。

彼は作品のなかで、キャラクターのビジュアルを(主に)アメリカのポップカルチャーから引用しています。

 

そもそも彼の近作の線や表現は、ダニエル・クロウズなど欧米のコミック、グラフィックノベル作家に影響を受けているので、当然欧米(特にアメリカ)からの影響が作品のなかに見て取れても別に不思議ではありません。ただ、そこにわかりやすいサンプリングがあると気づいてからは、それを探すのも楽しみのひとつになりました。

ということで具体的に見ていきましょう。

 

 まず『東京怪童』から。

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望月ミネタロウ『東京怪童 1』講談社、2009年、21p

この二人は、作品の舞台となる精神病院にいる健忘症の患者と、警備員(なのか患者なのかはっきりしない)。それぞれわかりやすい元ネタがあります。

 

健忘症の患者の方は、映画『ナポレオン・ダイナマイト』(ジャレッド・ヘス)(04)の主人公ナポレオン・ダイナマイト(ジョン・へダー)。

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ちょっとかわいそうだけどひたむきなキャラクターは元ネタとも通じるところがあるかも。

 

警備員は、『ゴーストワールド』(テリー・ツワイゴフ)(01)に出てくる、ヌンチャク男ダグ(デイヴ・シェリダン)。

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服装は違うものの、テンションが高く喧嘩っ早いキャラクターが似ているうえ、明らかに同じシーンも存在します。

 

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望月ミネタロウ『東京怪童 1』講談社、2009年、74p

ヌンチャクとモップのバトル。同じです。

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それから、『ゴーストワールド』は先ほど名前をあげたダニエル・クロウズが原作・脚本の映画であることもポイント。

 

次。これは病院の患者の中でももっとも重い症状をもつ女の子。自分以外の人間が認識できないので、一人きりの世界に住んでいます。

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望月ミネタロウ『東京怪童 1』講談社、2009年、7pより



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これは『リトル・ミス・サンシャイン』(ヴァレリー・ファリスジョナサン・デイトン)(06)のオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)からでしょう。天真爛漫なキャラクターは同じですが、『東京怪童』のこの子はかなり切ない境遇。

 

次は『ちいさこべえ』から。

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望月ミネタロウ『ちいさこべえ 3』小学館、2014年

この主人公の茂次の長髪ヒゲ+サングラス+ヘアバンドルックはまさにこれ。

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『ロイヤル・テネンバウムス』(01)のリッチー(ルーク・ウィルソン) 。
感情の表出は少し違えど、ナイーブな性格は共通しているし、ヒゲを剃るところも同じです。

そしてなによりウェス・アンダーソン監督作品です。
望月ミネタロウが今やっている『犬ヶ島』のコミカライズへの布石がここにあったのでは…?

 

こちらは茂次が引き取ることになった孤児の一人。

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望月ミネタロウ『ちいさこべえ 1』小学館、2013年、179p



これはわかりやすいかも。

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アダムス・ファミリー』(バリー・ソネンフェルド)(91)のウェンディ(クリスティーナ・リッチ)です。妙に大人びたキャラクターが元ネタとマッチしてます。

このように比べていくと、見た目以外の部分でも共通点をもたせている、あるいは元ネタのキャラクターを完全に振り切ることはできないということがわかります。だいたいの場合において元ネタのキャラクターを受け継ぐような配置がなされているのです。

 

次はこちら。左下のコマのおじさん。漫画を読むとわかるが、かなり気持ち悪いキャラクターである。

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望月ミネタロウ『ちいさこべえ 1』小学館、2013年、104p

これはちょっと確信が持てていないが、

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トーキング・ヘッズデヴィッド・バーンでしょうか…違う…?(違うよ!っていう人がいたら教えて欲しい)
このキャラクターに関しては本人とのキャラクター的なリンクはあまり認められないし、無理やり当てはめただけで、正解が他にありそうな気もしている。

 

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※追記:この記事を公開してすぐ、こちらの元ネタに関する情報を教えてくださる方がいたのでそれを記載します。デザイナー・イラストレーターの惣田紗希さんの過去ツイートで触れていたそうです。まさにドンピシャでした。

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さて、僕が見つけられたのはここまででしたたが、これだけでも望月ミネタロウの趣味の方向が少し伺えます。

アメリカのインディペンデントな文化圏からの引用が多いのは納得できます。けれど、ほぼまんまな見た目のキャラクターでも、漫画の中に配置されると元ネタとは違った魅力を見出せるという点は、サンプリングという手法のあるべき使い方という感じがしますね。

 

また、キャラクターのサンプリング他にも 、

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望月ミネタロウ『ちいさこべえ 1』小学館、2013年、149p

ちいさこべえ』には、登場話ごとに違う柄だが、かならず『シャイニング』(スタンリー・キューブリック)(80)にまつわるTシャツを着ている少年なども出てきます。

 

そして途中でも触れましたが、ウェス・アンダーソン作品からの引用は、現在『モーニング』で隔週連載中の『犬ヶ島』のコミカライズを想起せざるを得ない。公式に漫画を描くというこの仕事が決まった時には望月先生、嬉しかったのではないかしら…。

この『犬ヶ島』、映画を見た皆さんはぜひチェックしてみるべきです。また新しく変わりつつある望月ミネタロウの絵柄が興味深いです。

 

こういった文脈をふまえると、これらの作品では作者の趣味バルブが全開なのがよくわかります。ポップカルチャーからの引用ではないにせよ、初連載の『バタアシ金魚』から趣味は全開だった気もするけど。

元ネタのありそうなキャラクターはまだまだ多いのでサンプリングの元ネタ探しは継続して行なっていきたいです。ここに追加していきたいので、みなさんも見つけたら連絡ください。よろしくお願いします。

読んでくれてありがとうございましたー。

 

 

おまけ

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望月ミネタロウ『ちいさこべえ 4』小学館、2015年、238-239p

小津安二郎オマージュも。

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東京物語』(小津安二郎)(53)